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新連載「ゲームシナリオライターなのに、ゲーム作りに参加してしまった件」第1回 プロなのに、作りたいゲームが作れない!?

2.目の前にそびえ立つはプロの壁

経験も知識もないような新人に、すべて任せるはずがない。
企画・設定、物語、その始まりも決定権も制作会社にある。
それは当然のことなのだが、「自分の作りたいゲームを作れる」と思っていた私にとっては、衝撃の事実だった。

「そんな当たり前ことも分からないの?」と思う方もいるだろう。
だが、夢と希望を抱いていたのは私だけではない。
生徒達もそうだが、新人ライターの中にも夢と希望に敗れて、辞めていった人たちが大勢いる。

おそらくこれは、「シナリオライターにとって最初の壁」なのだと思う。
この壁を乗り越えた時、「本当のシナリオライターの役目」に気づくのだ。

実際、無事にこの壁を乗り越えた私は「プロ」としての自信と自覚を持てるようになった。

さて。私はどうやって乗り越えられたかというと、実はそう難しいことではない。
「私がこのゲームを作ってる! 私が主役!」という思い込みを、なくしたのだ。
「私はゲームを作るお手伝いをしている。私は影……」そうスイッチを入れ替えた。

目立ってはいけない。
個性を出してはいけない。
他人が望んだ世界を形にするのが仕事。

考えてみてほしい。
みなさんがゲームを買う時、「シナリオライター」で買うことはあるだろうか。
私自身は、まずない。
好きなゲーム会社、イラスト、声優、システムで判断する。
近年では、なろう系で有名な小説家さんがゲームのシナリオを担当することもあるが、それはまた別だ。

100本以上の作品に関わってきた私だが、これを読んでいるそこのあなたも「泉りお」の名前に聞き覚えはないだろう(よっぽどコアな乙女ゲームファンでない限りは)。
ゲームのエンドテロップで流れてきていても、ユーザーは目にとめない。
それが、シナリオライターなのである。

ここまで書くと、ネガティブに捉えられてしまうかもしれない。
しかし、忘れてはいけない。
「縁の下の力持ち」というのは、なくてはらない存在である。

生徒たちに自分が考えた物語を書かせるとスラスラ書き進めるが、他人が考えた物語を書かせると思うように書けなくなる。
なぜなら、他人の考えた世界を読み取る力も、表現する力も、補う力も、養ったことがないからだ。
どうしても自分らしく書きたくなり、「個性」が出てしまう。
さらには、自分の都合のいいように解釈し、原作者の意向とは違うテイストに書いてしまう。
これは生徒に限らず、新人ライターにも起こりうることである。

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夢も個性も失ってまで(?)、ゲームシナリオライターを続ける意味とは?

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