3.ゲームシナリオライターが描くのは七色の世界
ならば、どうすべきか。これも答えはシンプルだ。
自分という個性を隠す代わりに、「その作品としての個性や色」を出す。
たとえ世界設定やキャラクターのバランスが多少ちぐはぐでも(!)、同じ色に染め上げる。
作品を通して、何を伝えたいのか、見せたいのか、制作側の意図をしっかりと理解し、それを代わりに形づくる。
足りないものがあれば、補い。いらないものがあれば、削る。
そこに自分の好みはいらない。その作品として、必要かどうか。プロとして判断すべきはそこだ。
シナリオライターの本当の役目に気づいた時、私はそれを「面白い」と思い「難しい」とも思い、「なんてやりがいのある仕事なんだろう」と改めて感じた。
私が描く世界は、私の色でしかないが。
他人が作る世界は多彩な色に溢れていて、それを表現するのが楽しくて仕方ない。
ライター歴15年。まだまだ使い分けられる色は少ない。
自分にどこまでの色を表現できるのか……日々、挑戦と勉強と努力である。
そんな経験から、生徒たちにはいち早く「壁」の存在を伝えるようにしている。
知らずに突き当たるのと、知っていて突き当たるのでは、そのダメージは違うはずだから。
シナリオライターは「縁の下の力持ち」。
自分ではない誰かの作品を、形づくるお手伝いをする。
そう、影からひっそりと。
裏から、そっと。
これからも支えていこうと思っていたのに……
あの日、私のゲームシナリオライター人生に大きな転機が訪れた。
「泉さん、一緒にゲーム作らない?」
5次元という会社さんからお誘いいただいた、新規ゲームプロジェクト。
それは後に、推しノベルシリーズの第1作、『B.I.N.D.』としてリリースされる乙女ゲームなのだが。
このプロジェクトに参加したとこにより、私は「縁の下の力持ち」どころか、煌々(こうこう)とした光の下に引っ張りだされることになる。
⇒次回「15年のノウハウが通じない!? 負けられない戦いがそこにはあった!」(仮)へ続く
文・イラスト/泉りお
※当連載の第2回は、7月21日(木)頃に掲載予定です