連載 ゲーム

「ゲームシナリオライターなのに、ゲーム作りに参加してしまった件」第6回 真面目に議論しているだけなのに、面白すぎた○○の件

3. 役職は関係なし! 心ひとつに熱く語りあえ!

イラストレーター「レインの乳首って、どこまで描きます?」

彼女の一言に、みんなハッとした。
それはいつものように、みんなで意見交換をしている最中の出来事だった。
バインドのとあるシーンで、レインが上着を脱ぐことになるのだが。 その時の立ち絵やスチルで、レインの乳首を描くか否か……それが議題に上がったのだ。

私もそれなりに、乙女ゲームのノウハウを知っていたつもりだが、乳首の描写までは考えが回っていなかった。
さすが、プロのイラストレーター……目の付け所がすごい。

くだらない話題のように思われるかもしれないが、乙女ゲームにおいては、非常に重要な問題である。
そのワンポイントがあるかないかで、今後のスチルの方針が決まると言っても過言ではない。

バインドのキャラクターを見ていただければ分かるように、ややリアルタッチで描かれている。そして、メインターゲットは20代の女性。作品の内容もシリアス寄りで、大人の恋愛をテーマのひとつにしている。
シンプルな絵柄ならば、ワンポイントはいらない。むしろ違和感となってしまうだろう。

だが、バインドはどうだろうか。
このワンポイントがあるだけで、ぐっとリアルさとセクシーさが上がる。 今後のスチルにも“そういった期待”を持つことができるだろう。

「色気は出るけど、やりすぎなのでは?」
「ちらっと端っこが見えるのはどうです? 妄想を掻き立てられますよね」
「アプリストアのレギュレーションは大丈夫?」
「あまりリアルだと、見るの恥ずかしくないですか?」
「サイズにもよる気がしますね……」

そこに笑いは一切なく、全員が真剣に話し合った。
私はそれが、面白くてたまらない。もちろん、笑う方の面白さではない。
たったひとつのポイントについて、全員で熱く語れることに感動していたのだ。
役職・役割なんて関係ない。
全員で、ひとつの作品を生み出そうという一体感に、感動していたのである。

話し合った結果、レインの胸元がどうなったのか……。
それは本編の美麗スチルで確認していただきたい。

そんな熱い会議を繰り返しながら、制作は進んでいった。 私がシナリオを書き、イラストレーターさんがスチルを描く、それをその他のあれやこれやと一緒にプログラマーさんが組み込んでいき、次第にバインドはゲームとして形になっていった。

そして……。
プロジェクト開始から約1年、ついにシナリオが完成。
私のゲームシナリオライターとしての役目は、終わったのである。

⇒次回 最終回!?「ゲームシナリオライターを目指す人に伝えたいことがある!」

文・イラスト/泉りお

1 2 3
RELATED POST