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「ゲームシナリオライターなのに、ゲーム作りに参加してしまった件」第7回 お仕事なのに楽しんじゃった!? やっぱりゲームが大好き!

2.ついに『バインド』リリース! この想い世界に届け!!

2022年5月17日。
iOS/Android で、恋愛アドベンチャーゲーム『バインド』がリリース。
日本を含む145の国と地域での配信となった。

日本だけでなく世界中の乙女達にむけた作品だということは知っていたが、まさかの数字。最初に見た時に、“45”の国と地域の間違いだと思った。
だが、どこの告知サイトを見ても145の国と地域と明記されている。 ……間違いではない。私の描いた物語は、とてつもなく広い世界に羽ばたいてしまったのだ。

今回シナリオを書くにあたり、日本だけではなく世界の乙女達に受け入れられるものを作りたいという思いがあった。
けれど、日本生まれ日本育ちの私にとっては、世界に関する知識があまりにも少ない。
しかも「世界の乙女心」なんて、どうやって勉強すればいいのか見当もつかなかった。
正直に「どこを気にすればいいのか分かりません」とお伝えしたところ、「こちらでフォローしますから、泉さんの書きたいように書いて大丈夫です!」と、なんとも心強いお返事。
その言葉に甘え、私は自分の想いのままにシナリオを書かせていただいた。
結果、修正箇所がいくつか出てくることにはなってしまったのだが、そこはみんなで話し合い、世界の乙女達にも受け入れてもらえるような内容に調整することができたように思う。
また、『バインド』のシナリオは心理描写が多く、抽象的なたとえや詩的表現も多々使用している。それを翻訳するとなるとどうなってしまうのか……翻訳担当者には、とても大変な思いをさせてしまったのではないだろうか。
英語で書かれた『バインド』の世界が、世界の乙女達にどのように伝わっているのか気になるところではあるが、そのハートをキュンとさせられていたら嬉しい。

プロットにシナリオ。『バインド』の物語を描いたのはゲームシナリオライターである私だが、プロジェクメンバーの誰かひとりが欠けても、この物語は完成しなかった。
必ずどこかに、誰かの想いが込められているのだ。

ゲームシナリオライターとは本来、孤独な存在だと思っている。
ひとりで作品のすべてを理解し、それを相手が望む形にしていかなければならない。
どんなに悩んでも、迷っても、答えは自分で出すしかないのだ。
ゲーム制作が進んでいく裏で、ただひたすらに文字を打ち続ける。
どんなに時間がたっても、画面は変わり映えしない。黒い文字が並び続けるだけだ。
だが、ゲームが完成した時。
生き生きとしたキャラクターが描かれた画面の中に、自分の書いたシナリオが表示される。
その瞬間。自分も制作メンバーのひとりだったのだと、やっと実感することができ、胸いっぱいに溢れるような達成感を得るのだ。

しかし。今回の私は、ファミリーの一員となり、孤独を感じるヒマすらなかった。
……ゲームシナリオライター歴15年。
こんな感情はプロとして失格なのかもしれない。
今回の推しノベルプロジェクト。
私は学生時代の部活動のように、おもいっきり楽しんでしまった。

プロのゲームシナリオライターとして自分のやるべきことをやろうと必死になってはいたが、その時間の隙間に「ただのゲーム好き」の私がいたことも確かだ。
普段は相手が望む色に染めていたが、自分の好きな色で塗らせてもらった個所もある。
それはとても勇気のいることではあったが、その挑戦を経て大きく成長したように思う。
15年たってもまだ、成長できることがある。もっともっと学びたいと思える自分がいる。
新人の頃に抱いていたキラめきや、ゲームに対する愛情を、今一度思い出させてもらった。

今まで関わらせていただいた作品のすべてが、私にとって大切な存在ではあるが。
『バインド』もまた、私のゲームシナリオライター人生において、特別な意味を持つ作品になったのだった。

ゲームシナリオライターを目指すクリエイターの卵達へ

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