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「のこす!いかす!!マンガ・アニメ・ゲーム展」京都国際マンガミュージアムで 3月末まで開催中! / シンポジウム「マンガ・アニメ・ゲームをどうのこす!?どういかす!!?」レポート

京都国際マンガミュージアムでは2024年11月から2025年3月末まで「のこす!いかす!!マンガ・アニメ・ゲーム展」を開催中です。微力ながら筆者もゲーム分野の展示をお手伝いしていますので、今回は本展の魅力をシンポジウムの模様と合わせてお伝えします。

本展の正式名称は「文化庁メディア芸術連携基盤等整備推進事業成果発表展 『のこす!いかす!!マンガ・アニメ・ゲーム展』」といい、文化庁事業として開催されています。「メディア芸術」とは、マンガ、アニメ、ゲームや映画・特撮などのことです。絵画や音楽や詩などに比べれば新しい芸術分野とはいえ、歴史が積み重なり多くの作品が生まれてきています。

本展は、文化庁のアーカイブ等に関する取り組みを紹介しつつ、どのようなモノが、どのような形でアーカイブされ、今後何をどのように集め、どう活かしていくかをテーマに、マンガ、アニメ、ゲーム分野にフォーカスして展示しています。

シンポジウム「マンガ・アニメ・ゲームをどうのこす!?どういかす!!?」

企画展の関連イベントとして、2025年1月18日にシンポジウム「マンガ・アニメ・ゲームをどうのこす!?どういかす!!?」が開催されました。登壇者は本展に携わった、マンガ家のすがやみつるさん、文化庁 芸術文化調査官 メディア芸術担当の椎名ゆかりさん、京都精華大学 国際マンガ研究センター 特任准教授/本展マンガ分野担当のイトウユウさん、一般社団法人日本アニメーター・演出協会 事務局長/本展アニメ分野担当の大坪英之さん、立命館大学 ゲーム研究センター 客員協力研究員/本展ゲーム分野担当の尾鼻崇さんという、メディア芸術のアーカイブの最前線の方々です(お名前は公式サイト掲載順)。

左から、尾鼻崇さん、大坪英之さん、椎名ゆかりさん、イトウユウさん

メディア芸術のアーカイブについて議論された濃厚な4時間でしたが、ここではコンパクトに濃縮してご紹介しますので、お読みになったら京都の企画展会場で実際に展示をご覧ください。

文化庁のメディア芸術振興(サポート)

日本では1997年(平成9年)から文化庁メディア芸術祭を開催し、2001年(平成13年)「文化芸術振興基本法」制定、2002年(平成14年)国会での「知的財産立国宣言」を経て、2017年(平成29年)に文化芸術振興基本法は作品の保存、人材育成、芸術祭の支援を盛り込む形で「文化芸術基本法」として改正され、メディア芸術は単なる娯楽ではなく、次世代に継承していくべき文化資産であることが明確になりました。その文化・芸術を振興する国の機関が、文化庁です。
(文化庁 芸術文化調査官 メディア芸術担当 椎名ゆかりさん)

マンガ・アニメ・ゲーム各分野の展示・ねらい・課題

マンガ分野の展示は、印刷物としての雑誌・単行本と、原画から印刷されるまでのマンガが出来るまでのプロセスや、読者の活動にも焦点が当てられています。例えば、週刊少年ジャンプ1年分は48冊になり、原稿や単行本をあわせると膨大です。ポピュラー文化(ポップカルチャー)のアーカイブでは、このように保存するべきものが大量なだけでなく、作り手やファンにより広がっていくことで多様にもなっていきます。ミュージアム同士で連携してもなお大変な状況で、何を収集すべきか(しぼるか)という課題が常に存在します。
(京都精華大学 国際マンガ研究センター特任准教授 イトウユウさん)

アニメ分野の展示は、プロダクションI.G(株式会社プロダクション・アイジー)の協力による制作工程やセル画の技術などを紹介し、アニメーションの多角的な魅力を伝える工夫が凝らされています。また、有限会社六方の協力による25年以上前に制作現場から姿を消したセル画の復刻や、当時アニメ雑誌に掲載されたセル画材をとりまく詳細な情報の活用など、アーカイブの多様なアプローチが紹介されました。その中で、アニメーション制作における中間制作物の保存や、作品の許諾、展示に使える状態であるかの確認など展示を行う上での課題、セルをはじめとした当時の画材(消耗品や器具)、制作方法、作品上の効果・意図などが伝わらない可能性が高まっている点、そもそも物理的な素材等が残らないデジタル制作が主流となっている点などを踏まえ、どのように展示し、継承していくかという課題が提起されました。
(一般社団法人日本アニメーター・演出協会 事務局長 大坪英之さん)

ゲーム分野の展示ではアーケードゲームに焦点を当て、日本ゲーム博物館の協力を得て貴重な筐体、株式会社タイトーの協力による『スペースインベーダー』の開発資料の展示の他、既に製造が終了しているブラウン管テレビを液晶テレビで置き換えてもオリジナリティが損なわれないかを実際に比較できます。物理的な大きさ、メンテナンスの難しさ、稼働状態での保存の難しさ、搬入・設置の困難さ、メンテナンスできる人材の育成、ゲームの体験をどのようにアーカイブしていくかなどが課題として挙げられ、展示を通じてアーケードゲームの現状や課題について理解を深め、今後のアーカイブのあり方を共に考えることを目指しています。
(立命館大学 ゲーム研究センター 客員協力研究員 尾鼻崇さん)

各分野の展示と課題を踏まえたディスカッションでは、今後に向けた以下のような取り組みの必要性が語られました。

  1. 個人のコレクターが貴重な資料を大切に保管しているケースも多いので、資料がどこにあるかの把握
  2. 資料を適切に扱うスキルや、資料データベースを構築するスキルを持った人材の育成と、ベテランの技術・知識の継承
  3. 作品の展示・公開にあたっての権利者の許諾。生成AIを用いて制作された作品の権利関係を含めたあり方の検討。
  4. 国内に資料を留めておくための施策や海外機関との連携
  5. ファンが作品に求めるものが多様化しているのを踏まえた、多角的な視点からの作品分析と展示への反映

『ゲームセンターあらし』すがやみつる先生の作家人生50年

シンポジウム後半は、本展メインビジュアルともなっているマンガ『ゲームセンターあらし』を書かれた、すがやみつる先生が登壇されました。『ゲームセンターあらし』は1980年代に人気を博したゲームがテーマで、アニメ化もされるなど一斉を風靡した、まさに本展を象徴する作品となっています。

すがや先生は、1971年に『仮面ライダー』のマンガでデビューして以来、60万部を発行した学習まんがの『こんにちはマイコン』や小説など沢山執筆されている他、京都精華大学マンガ学部キャラクターデザインコースの教授もされていました。

すがやみつる先生

沢山の作品を描かれていますが、原画などはいずれ寄贈や販売されることを検討されているそうで、他のマンガ家の方も、ご家族の負担を考えてそうされることが増えているそうです。マンガ原稿中の書き文字や色指定は、トレーシングペーパーに指示を書き、カラー原稿はペン入れしたものをコピーし、コピーに色を塗っていたそうで、原画は印刷される過程の中間生成物で、本が最終形態だと考えられていて、原画の整理はほとんどされてないそうです。自分の作品はアミューズメントのようなものだと考えている一方、師匠にあたる石ノ森章太郎先生の絵は額に入れて飾られているそうです。

(御自身が描かれた作品の原画にさほど関心がないのは、すがや先生が新しい作品を生み出し続けているからこその感覚かとも思いました)

『インベーダー』筐体へライブペインティング

ちなみに講演後は、ファンの方が列をなしてサイン会状態で、筆者も『こんにちはマイコン』でプログラミングを学んだのでサインをいただきました。さらにゲーム分野のコーナーに置かれた、『ゲームセンターあらし』内の『インベーダー』を再現した筐体にライブペインティングをされたので、是非会場でご覧ください。

「のこす!いかす!!マンガ・アニメ・ゲーム展」は京都国際マンガミュージアムで3月末まで!

会場の「京都国際マンガミュージアム」は30万点以上のマンガ資料が収蔵され、建物自体も登録有形文化財であるなど魅力だらけです。ちなみに入口の所にあるカフェの壁は訪れられたマンガ家さんのサインで埋め尽くされてますので、休憩はこちらでどうぞ。

見学情報

名称: 文化庁メディア芸術連携基盤等整備推進事業成果発表展「のこす!いかす!!マンガ・アニメ・ゲーム展」
会期: 2024年11月23日(土)~2025年3月31日(日)
会場: 京都国際マンガミュージアム(京都府京都市中京区烏丸通御池上ル)
開館時間: 10:00-17:00 (最終入館 16:30)
休館日: 毎週水曜日(休祝日の場合は翌日)、年末年始、メンテナンス期間
公式サイト: https://kyotomm.jp/ee/manga-anime-game/

(中林寿文 記)

中林 寿文

ミュージアム、史跡を日々めぐる博物館マニア。サイバーズ(株)のミュージアムめぐりサポートアプリ『Sugoroku.com』で文化庁主催 第4回メディア芸術データベース活用コンテスト クリエイティブ部門優秀事例選出。事務局代表をつとめた『福島ゲームジャム』は第17回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門審査委員会推薦作品選出。日本ゲーム展示協会ではゲームのアーカイブ展示に携わる。推しinfoを運営する(株)5次元のCTO。

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