機能が推し事の邪魔をする?
さて、いきなり日数が経過して恐縮ですが、スクリーンショットのとおり、弦と知り合って100日が過ぎました。
ですが、どうにも距離が縮まったように思えません。プレイを開始して数日で通知もしつこく感じ、アクセスしてもストーリーは進まないしRAYNもすぐ回数制限にひっかかってしまう。クールタイムの残り時間を教えてもらったところで、私自身がそのときに暇という保証はどこにもない……。
正直に言いますと、自ら「束縛されてもいい、束縛されるほどに心地いい」と思えるほどの心境には至らなかったのです。『束縛彼氏』が放置彼氏になった瞬間です。
これでは推すに至れない……。
そうなると、キャラクターではなくシステムのほうに段々と興味が向いてきました。なぜこのアプリはこんなにも素直に推させてくれないのか、その域に私を押し上げてくれないのか。
AIを利用したチャット、彼の生活を垣間見ることができるペットカメラ、プレイヤーの日常に介入してくるAPI設定や通知と、柱となる機能のスペックは魅力的に思えたのですが、何と言いましょうか、有機的に繋がっていないのです。
一つ一つの機能から、考えてみます。
ストーリーはキャラ立ての奴隷になっていい
多くの女性向けコンテンツは、キャラクター理解への強力な推進力として「ストーリー」を主軸としてきました。ストーリーの中でキャラクターの特徴や人間関係、社会性を描くことができ、それらはキャラクターの愛すべき性格としてプレイヤーに記憶されます。束縛彼氏もその点では一緒です。
感情移入がしづらいというのは、ゲームに限らず映画やコミック等どんなメディアでもあり得ることですが、このアプリのシステムが惜しいのは「ストーリーには主人公が確実に描写されているが、RAYNとペットカメラはプレイヤーが素で触る」という点です。
なので強烈にストーリーからの接続がなされていないと、RAYNとペットカメラを地続きのものとして感じるのは難しい。
例えば「ストーリーで二人で買い物に行くシチュエーションがあり、そこで買った家具が次にペットカメラを見たときに部屋に置かれている」「ストーリー後のRAYNでは、デートの内容を振り返ったり、その時撮った写真を送ってくれる」ということで補完してほしいわけです。
ストーリーを進めると1話ごとに1枚のスチル画像が入手できますが、これをRAYN経由で受け取ったことにするだけでも繋がりが深まると思えるのですが……そういった連携はない。
リングやラブ不足のためにストーリーを数日見られないというのも距離を感じてしまう点です。
ストーリーでキャラクターを浮き立たせ、親近感を覚えてもらうということは至上の命題ですが、あまりに分断されていると、キャラクターについて書かれた履歴書を何枚も見せられているのと同じで、彼の良さがまったく浮かび上がってきません。次にストーリーを進められるようになるまでに、どんな彼だったか覚えていられないという……。
せめてRAYNがそこを補完してくれていればよいのですが、後述のようにメッセージがキャラブレを許容しているため、まったく切り離されたツールアプリを触っている気持ちになります。
ゲームアプリのストーリーは「毎週放映されるアニメを来週まで待つ」というのとはまったく構造が違います。中断というのは、プレイヤー側に理由を置くにしても「無料ユーザーだから先に進めない」という寂しいものではなく、「今日はもう時間のほうがない」「一通り触って満足したので明日まではすることがなくてもいい」という状態にすべきです。
キャラクターを立てるために、ストーリーは軽く読む程度では読み切れない量を用意し、それをスムーズにオープンしていくのが、ターゲットにかかわらず最近のスタイルでもあります。
AIよりも考え抜かれた選択肢とリアクションのほうが気持ちいい
中断されてしまう無念さはRAYNについても同様です。RAYNのクールダウンタイム告知も、メッセージを書き込んで送信ボタンを押したときに出るので、今一生懸命考えて記入した言葉が相手に届かずに中断させられてしまいます。
そして、動画広告を見る気にもなれません。たとえ見るとして、広告というのはまったく別の世界観が割り込んでくるわけですから、それを30秒見た後でも気持ちが維持できるかというと微妙です。加えて、ちょっと残りタイムが減るだけで、抜本的な解決にはなりません。頑張って「有料ラブ」を使用しても45分の短縮。すぐに再開できるわけじゃないんです。
そして、そこまでしてクールダウンタイムを縮めた後にすることは、さっき書いておきながら送信を中断させられた自分のメッセージを送信することなんですよ。理不尽ですよね。過去の穴埋めをさせられているみたい。
本アプリの一番の売りであるAIも、これでは宝の持ち腐れです。AIには大きく「学習」と「判断」に分けられますが、本アプリのAIは形態素解析と深層学習の組み合わせと考えられます。いにしえからのゲームプレイヤーであれば「人工無能」と言えば通じますよね。
これは推測ですが、受け答えの整理や会話にリアリティを持たせる分岐のアルゴリズムもないように思われますので、カスタマーサポート等で使われる一問一答型のチャットボットがサーバー側にひかえているのではないでしょうか。
ストーリーで目にする彼と全然違うキャラクターに思えてしまいます。違和感を抱かせてしまうくらいだったら、プレイヤー側は定型文や選択肢にし、キャラクター側はある程度の幅をもたせた回答アルゴリズムで、キャラらしい言動をさせたほうが適しています。ストーリーやキャラ立てをそれほど気にしなくてよいときはサーバーに接続してAIとの自由会話を楽しむ、というハイブリッド方式も考えられます。
キャラクターというのは、身も蓋もないことを言えば、クリエイティブ、すなわち製作者の作為の現れです。なのに自由文入力に対してAIが自由に回答をしてくるというのは、「キャラブレ」をシステムがために許容してしまっているということになります。
興味がないくせに話を合わせるのもヘタ。こんなキャラをプレイヤーに可愛がれというのは押し付けではないでしょうか。
もし「興味がないクセに話を合わせるのもド下手クソ、でも愛しくてしょうがなく思えてくるキャラクター」をあえて描きたいなら、それはストーリーをもって、手厚くプレイヤーの気持ちを誘導してほしいです。
もう一点、時間による投稿制限についてなのですが、これはAIを動かすサーバーのインスタンスかチャットボットライセンスの利用料がかかっているからなんじゃないかと推測しています。
プレイヤーに無尽蔵に使わせてしまうと、たいした学習成果も得られないわりに運用コストが破綻してしまうという事情があるように見えます。
学習成果を得難い理由もそれなりにわかっていて、プレイヤーって基本的に「相槌」と「質問」をするんですよ。本当はキャラクターに「回答」の学習をさせないといけないのですが、構造上、プレイヤーはあまり粋な答えやうまい返しを投げてくれません。
この齟齬を埋めるのは全自動ではできないので、どうしても出会いサイトのサクラのようなオペレーターを用意するか、一定の期間で運営者がプレイヤーが書き込んだ内容を吟味して、回答をあえて作り込み、AIに回答用の学習をさせていかなければなりません。
古くから『Emmy』や『シーマン』といったインタラクティブな会話を主体としたコンピュータゲームがありますが、現代に比べて高性能な端末でもなければ、利用できるメモリ領域も多くはありませんでした。けれども、アルゴリズムの工夫で「その会話で成立する強烈なキャラクター性」をプレイヤーがつい見出してしまう、という特徴があります。現代的なAIでなくともそれを作り出せていたのは、開発者の並々ならぬこだわりがあったのではないかと思うのです。
端末やサーバーのスペックがリッチになった今、「推したくなるキャラ」のバックボーンにAIがあるというのは、夢物語に終わるものではないはずです。
⇒次ページ「ぶっちゃけ何をすればいいの?」