ゲームシナリオライターとして多くの経験を積んできた泉さんが、初めて(アジャイル開発の)メンバーのひとりとしてゲーム開発に携わった経験を、赤裸々に?綴った当連載も、いよいよ最終回に。“ティール”な会社とのお仕事は初めてで、戸惑うことも多かったようですが……。様々な“なのに”体験を乗り越えた泉さんが、この最終回で「クリエイターの卵達にどうしても伝えたいこと」とは?
1.ゲーム制作はまだまだ終わらない!
――推しノベルのプロジェクト開始から約1年。
ついにシナリオが完成した。
それはつまり、私のゲームシナリオライターとしての役目が終わったことを意味する。
作品のテーマ決めから始まり、世界観の作り込み、キャラクター設定、プロット、シナリオ……と、苦手なジャンルと戦いながらもひたすらに走り続けてきた1年間だった。
シナリオのラスト、“END”の文字を打った時。
毎度のことながら、なんともいえない感情に包まれる。
やっと終わったという安堵感もあるし、終わってしまったという寂しさもあるし、プレイヤーさんに楽しんでもらえるだろうかという不安もある。
15年間シナリオを書き続けてきたが、この気持ちだけは新人の頃から変わっていない。
ただ今回のプロジェクトに関しては、寂しい気持ちが大きかった。
もうこれで、プロジェクトメンバーとの会議も終わりだと思ったからだ。
思い起こせば初めて企画会議に呼ばれた時は、不安で不安でたまらなかった。
「ゲームシナリオライターは縁の下の力持ちでいい」。
そう思っていた私が、突然光の下に連れ出されたのだから、動揺するなというほうが無理だろう。
だが、今はどうだろうか。
縁の下が住処だったはずの私は、気が付けばプロジェクトメンバーと一緒に縁側に座っている。
魔王軍の七天王のようだと恐れていた彼らは、今や私にとってファミリーになっていたのだ。
ゲーム制作とは、役割ごとに個々で仕事をするのが当たり前だと思っていた私にとって、今回のプロジェクト体制は驚くようなことばかりだった。
役割に関係なく、自分の持っている才能や技術を揮わせてもらえた(なんでも「ティール組織」の「ホールネス」という考え方だそう)し、ほかのスタッフの技術や知識を目の前で見聞きしたことにより、私自身が大きく成長できた。本当に貴重な体験ができたと感じている。
もっともっと、光の下で勉強させてほしかった。
そう思いながら打った“END”の文字に、寂しさがこもったのは仕方がないことだと思う。
こうして私の役目は終わり、あとは『B.I.N.D.(バインド)』(以下、『バインド』)がリリースされるのを待つだけとなった。
……そう思っていたのだが。
「よかったらスチルについてご意見ください!」
泉「はい、よろこんでぇ!!!」
そう。
シナリオが終わったからといって、私にできることがなくなったわけではなかった。
ゲームシナリオライターとしてだけではなく、乙女ゲームクリエイターとして引き続き私を必要としてくれた。
「まだゲーム制作に関われる! 完成まで待ってるだけじゃない! 最後まで一緒にできるんだ!」
この時の喜びは、とても言葉では伝えきれない。
もちろん、私の本職はゲームシナリオライターなので、そこから大きく関わることはなくなった。しかし、だからといって、各種コミュニケーションから外されるわけではない。
例えば、プロジェクトメンバー全員が入っているチャットルームがあるのだが、そこにはシナリオ脱稿後も(というか今も!)入ったままである。
そのため、ゲームが完成するまでの流れを、引き続きメンバーの一員として見せてもらうことができた。
引き続きメンバーの一員だから、テスト中の動くゲーム画面を見られたし、世界リリースに向けて翻訳されたシナリオも読むことができた。宣伝用のPVや告知用の記事、アプリ申請がうまく通らず担当者が一生懸命対応している様子まで、しっかりばっちり追わせていただいた。
そういうものでしょ? とお思いの人もいるかもしれないが、フリーランスのシナリオライター……つまり会社から見たらあくまで外注先のひとつなので、普通はそういうものじゃないのである。「ゲームって、こうやって出来ていくんだ」と、ゲームシナリオライター15年目にして初めて知ったのである。
→プロジェクトメンバーの想いとともに、ついに『バインド』世界にリリース!