特集 ゲーム

【コラム】日本と世界の間にあるもの~ゲームは誰のためのもの?

ゲームは誰のためのもの?

「Baldur’s Gate 3」は、「ダンジョンズ&ドラゴンズ」再ブームにパシッとハマったこともあり、世界的な大ヒットとなりました。そして2023年12月21日、満を持して日本語版がリリースされました。
 当然、多くの日本のゲームメディアが同作の記事を上げていますが……筆者の観測範囲では、多くが「初心者向け攻略情報」と銘打って、難易度を「探検家」(イージー)とすることを勧めていました。「ノーマルの難易度では難しい」と言っているわけです。
 繰り返しになりますが、世界で大ヒットしているゲームです。それが、日本人にとっては難しいのでしょうか?

 話は変わって……トランプゲームの「コントラクトブリッジ」をご存じでしょうか? 囲碁や将棋と同様にマインドスポーツに挙げられる、ポーカーと並ぶ大人気トランプゲームですが、日本でのプレイ人口は20万ほど。これまた、日本では「難しい」と言われがちなゲームです。

 前置きが長くなりましたが、日本人にとって未だに「ゲームは子供のためのもの」という考えが根強いことに、それらの理由があると筆者は考えます。子供基準で考えたら、これらは確かに「難しい」ですから。

 日本語で、ゲームは「遊ぶ」ものです。
 そして日本語での「遊び」は主に子供の遊戯を指し、大人が遊ぶのは「火遊び」、遊んでばかりいれば「遊び人」と、ネガティブなイメージになってしまいます。
 遊んでいいのは子供だけで、「いい年して遊んでばかりいる」のは悪いこと、なんです。

 一方英語ではゲームは「play」するもので、これはスポーツの試合や、楽器の演奏、舞台などでの演技と同じ。セックスやギャンブルも「play」ですが、これは逆にいえば、この言葉に大人も子供も関係ないということ。大人も「play」していいんです。

 世の中にあるエンターテインメントの多くは、大人を対象に作られています。小説、舞台、映画……古典的な傑作の多くに、生と死、性愛、人生の苦悩……つまり「子供向け」ではない要素が描かれているのは言うまでもありません。これは日本でも同じです。
 ところが日本人にとって「ゲーム」は「遊び」であるため、子供のためのものと認識されています。もし「大人向けのゲームを遊びたい」と言うと、アダルトゲーム(いわゆるエロゲー)を遊びたいという意味に捉えられてしまうほどに。

 これは海外の方からは奇異に映るようで……この記事のような話を私も直接耳にしました。

日本発・世界的大ヒットのゲームがさらに増えるために

 個人的にはこの認識の差を日本ゲーム業界が抱える「課題」と捉えており、できれば今すぐにも、すべての日本人から「ゲームは子供のためのもの」というイメージを払拭したいところですが(そうなると、プロゲーマーやeスポーツも今より受け入れられることでしょう)、……難しい。もっとも、マンガがアニメがそうだったように、いずれは時間が解決するでしょう。
 ただ「世界的なヒット作を作りたい!」という方や、そう考える会社の上層部の方がまだそのイメージを持っているならば、それは今すぐ捨て去ってほしい。

 ディズニーのように、戦略として「子供&家族向け」を狙う手は、もちろんあります。しかしゲームでの同領域は任天堂ががっちり押さえており、同社のプラットフォームで出すのならともかく、ほかのプラットフォームではニッチとなってしまいます。
 とくにPCで世界的なヒット作を出したいなら、ちゃんと大人の「play」に耐えられるクオリティにする必要があるでしょう。
 昨年多くの賞を獲った「Baldur’s Gate 3」「Alan Wake 2」は大人向けだし、日本生まれで世界的にヒットした「ELDEN RING」「DEATH STRANDING」なども、大人が楽しめるゲームでした。近年、龍が如くシリーズの海外での人気が高まっているのも、同様の理由でしょう。

 さて、以下は蛇足となりますが、良し悪しはさておき、前述したように日本のゲーム会社の上層部に「おじさん」が多いのは事実です。
 またゲーム業界人であっても「おじさん」ならば(国産の人気シリーズの最新作以外は)遊ばなくてもいい、と思っている方もいるかもしれません。
 しかし繰り返し述べているように、ゲームは子供だけのものではありません。

 コーエーテクモホールディングスのシブサワ・コウ氏は、2023年8月25日、CEDEC 2023の基調講演の中で最近ハマっているゲームとして「Diablo IV」を挙げていました。失礼を承知でいえば、御年73歳の氏が今も目一杯ゲームをplayされていると知り、さすがと感心しつつ、少し安心した次第です。
 それより下の世代のゲーム業界人なら、なおのこと(世界で話題の)ゲームはもっと見ておいていいのではないでしょうか。誰か私と、Baldur’s Gate 3でマルチプレイしませんか?

Text by 岩濱@5次元

参考文献:
ゲーム開発者の就業とキャリア形成 2022(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)
GAME DEVELOPER DEMOGRAPHICS AND STATISTICS IN THE US(Zippia) 

◆株式会社 5次元について
当社はゲーム・オンラインメディアの経験者により2020年1月に設立し、ゲーム/エンタメ/メディア/動画コンテンツの企画/開発/コンサルティングを手掛けています。

1 2
RELATED POST