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「ゲームシナリオライターなのに、ゲーム作りに参加してしまった件」第5回 乙女ゲームなのに女性キャラにこだわる!? 乙女ゲームのキモは主人公!

3. キスに横顔は必須!? 主人公の顔はアリかナシか!

無個性だった主人公は少なくなったが、乙女ゲーム(念のため補足しておくと、本連載では“恋愛”を楽しむタイプの女性向けゲームを指している)では、今も「プレイヤー=主人公」という考え方が変わらずに引き継がれている。

バインドの主人公ローザも、メンバーで最初に話し合ったのは、「感情移入(分身)タイプ」か「傍観(神視点)タイプ」かというものだった。

「感情移入(分身)タイプ」……個性が弱い。「明るい」「頑張り屋」など、当たり障りのない普通の主人公。行動的ではあるが、平均的な思考を持っている。プレイヤーは感情移入しやすく、自分自身が主人公になって物語を楽しめる。

「傍観(神視点)タイプ」……個性が強い。「高飛車」「ツンデレ」「ヤンデレ」など、攻略キャラ並みの個性をもった主人公。プレイヤーの性格とはかけ離れている(ことが多い)。
プレイヤーは感情移入がしにくく、自分と攻略キャラの恋愛ではなく、「主人公と攻略キャラ」の恋愛を外から見て応援する。

また、このタイプによってゲーム内のスチルや立ち絵にも大きな変化が出てくる。
「感情移入(分身)タイプ」であれば、主人公の顔はほとんど出てこない。
「傍観(神視点)タイプ」であれば、主人公の顔を印象付ける必要があるため、立ち絵やスチルにも登場する(キャラクターボイスが付く場合もあり)。
シナリオだけではなく、グラフィックにも関係する話なのだ。

では、バインドのローザ(主人公)はどうあるべきか。
最初の段階で、ローザはエリート看守という設定が出来あがっていた。
そんな彼女が明るく元気な女性なのは、設定的にも今作のイメージ的にも合わない。
そこで、ローザの一言属性は「クール」に決まった。

乙女ゲームの主人公で、「クールタイプ」は珍しいのではないだろうか。

つまり、個性の強い主人公である。

そうすると「傍観(神視点)タイプ」が好ましいのではという話になったのだが、我々には一つの懸念事項があった。
それはもちろんあの言葉……「主人公がプレイヤーに嫌われたら終わり」である。

クール系のローザは、言葉遣いも男っぽく気が強い。己の信じた正義と共に生きる女性。 その個性を前面に押し出して、全世界の女性達に受け入れてもらえるのだろうか?

かなり長い時間、ローザをどうするべきかと話し合っていた。

「顔は出さなくていいんじゃないですか?」
「でもキスシーンだと、横顔出ますよね?」
「「「あー! たしかにー!」」」

こんな会話を何度も何度も繰り返した結果。

「感情移入(分身)タイプ」と「傍観(神視点)タイプ」の良いところを組み合わせていこうということになった。……そう、まさかのパターン3である。

必要なシーンがあれば、スチルでも主人公の顔が出る。
だが個性が強すぎて、プレイヤーに嫌われてはいけない。

……そして。
私はまた、この会議で言い出せなかったことがあった。

私は、クール系のキャラが苦手なのである。

やばいやばいやばいやばい !!
なんでいっつもこうなるのぉぉぉ !?

⇒次回「企画会議もクライマックス! まさかの議題で大混乱!?」

文・イラスト/泉りお

※当連載の第6回は、9月15日(木)頃に掲載予定です

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