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「推さ日記」第7回『関係性へのシフト』(AGF 2023感想戦)

「関係性」はコンテンツビジネスの強靭な中核!

 ……ということもあって、ここ十年ほどでコンテンツの作り方が、恋愛ものに限らず「何らかのテーマ性を強く打ち出すもの」から「関係性」重視へと移行したのですが、何もないところに流れはできません。この移行の背景には、いくつかの成功例によって、現代的コンテンツビジネスのコアに「関係性」を据えるのがとても強靭だとわかったことがあると思っています。

 古(いにしえ)のコンテンツビジネスは、まずは一つの作品があって、その派生として他媒体での展開をしたり、グッズが販売されたりという順番だったんですね。一も二もなくまず良い作品、という時代です。作品にファンがついたら、そのファンに向けてグッズを売る。小説、漫画、舞台、ゲーム、アニメ、映画……と、売れて利益が出たらそれに応じて展開が広がっていく。とてもわかりやすい。

 ですが、長年の最適化において、最初に何らかの媒体でファンがついたとして、そこから二度も三度も最初のインパクトのようなハネかたはせず、ジワ売れを積み重ねていくことが作品売りのスタンダードなのだとわかってしまった。

 もちろん、一つの作品でこのようなPDCAサイクル(ちょっと古いですが「企画→実行→反省→改善」を繰り返す手法をこう呼んで実践するのが流行ったのです)を回すことは難しいです。反省したところでビジネスとして死んでしまったあとという場合が多いので、多数のコンテンツが死屍累々となっている状態を俯瞰し他山の石として、少しでも生存率の高いやり方を選んでいった結果なのです。

 屍とならないように、うだつの上がらない状況から脱却しなければなりません。そのために、シリーズを重ねて新規性を保ったり、利益の中から派生できそうな他媒体へと拡大していくわけです。これには継続的な投資が必要ですし、長期的な体力勝負を覚悟しなければなりません。情報が出揃っている市場は、レッドオーシャンとも言いますけれども、ビジネスの掛け金が上がるというわけです。

 逆に、上がりきっている掛け金を確保して投じる覚悟があるのであれば、最初から巨大な予算を使ってすべての媒体で展開する、という手法もとれます。

 言葉を選ばずに言えば、AGFに出展されるタイトルたちは「ジャンル作品」です。手を変え品を変えという作業はすでに先行者がやりつくし、屍の山を築いてくれているともいえますので、「果たしてアクキーを出すべきか」なんてところでいちいち迷ってられないわけです。

 小説、漫画、ゲーム、アニメへの仕込みだけじゃありません。ゲームセンターのクレーンゲームのぬいぐるみ景品、コラボ商品が並ぶコンビニ棚、街なかを走るラッピングトレーラー、池袋のアニメショップに並ぶアクキー、若手かつ界隈に人気のある俳優を据えたステージ(原作が固まってないうちにやるので、いわゆる外伝や前日譚にして整合性を無視できるやつです!)、AGFのようなイベントへの出展……

 適合しそうな消費者が集う場所ならそこに置く、ここでもあそこでも目にすることで流行っている感を出す、隣の人も手に取っていると感じさせる。

 作品やキャラクターを広告代わりに流布してマーチャンダイジングで儲けるというのは新しいことではないし、珍しくもないのですが、さまざまな種類の媒体へ露出することで、我々消費者に対して接触回数を上げるための方策にもなっているわけです。選挙カーが名前を連呼するのがいちばん効果ある、というのと一緒ですね。
 もちろん、そこで初めて触れるお客さんを取り込むファン層拡大への思惑もあり、基本的にこれらはファンが少ないうちであっても、人から目を奪っておくためにやっておくものです。

 やっておかなければいけないからこそ、初期に販売されるグッズのビジュアルがお決まりの宣材画像の使い回しで、クオリティ的にしょっぱい傾向にあるというのも、仕方がないのかもしれません。

 もちろん、ファンが買ったり目にしたりして本当に嬉しいもの、必要なもの、というのはありますし、その範囲内で客単価を上げるために矢継ぎ早にコンプ欲を煽ったり、限定品を謳ったりして売られるものもあります。

 とにかく全部やる。屍となる前に、再現性と最適化のチューニングに足る試行を最大予算でやり切る。ビジネスは再現性と最適化の繰り返しですからね。

 余談ですが、最適化ってコンテンツの中味にも影響を及ぼしているんですよ? 作品内で関係性を紡ぐキャラにしたって、似た絵柄やキャラ構成、どれを見てもほぼ同じ声優。チューニングされるのは時流に応じてのことであって、雨後の筍よろしく、似たようなものの中で、一番伸びたヤツが勝つ(=広まって儲かる)という話です。

 もしコケたら……? そりゃ数ヶ月でサ終するスマホゲームもありますよ、まさに博打です(笑)

……と書きましたが、巨大な予算が使えるプロジェクトならば、という話であって、身の丈から始めて徐々にファンを増やしていく道が潰えたわけではありません。クリエイターのサガとして、身ひとつでコツコツ更新して「ちいかわ」みたいなホームランを打ちてぇ〜! ってのに惹かれるのもわからなくはないです。
 ぼくはこっちのほうが好みではあるけれど、ビジネスをしたい人々のほうが世界において主流なので、しょうがない。

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