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「推さ日記」第6回『推し(#ババババンビ)が武道館いくので死ねなくなった』

#ババババンビはアメノウズメの末裔である

 ところで、推しinfoの読者なら、当然日本の神話や歴史をモチーフにしたゲームやアニメは慣れっこかと思います。言葉を選ばずに言えば、推したが最後、艦船や刀剣や神や英雄や偉人たちに研究者レベルで詳しくなる業を背負っている。
 ってなわけで、推しコンテンツによっては、キャラの原点たる日本書紀や古事記にあたったことのある人も多いと思います。

 日本の昔話で、天照大御神<あまてらすおおみかみ>が天岩戸<あまのいわと>に引き籠もった際に、困った神々が集まってどうしようか相談していたところ、天宇受売命<あめのうずめのみこと>がその前で艶めかしいダンスを披露し、あまりの馬鹿騒ぎっぷりに天照大御神が岩を少しずらして外をうかがったところを、手力男命<たぢからおのみこと>がガッシリと岩に手をかけて引きずり出したという有名なシーンがあります。それくらい、古来から歌と踊りの力はすごかった。まあ、神様がヒッキー(引きこもり)というのもなんか日本ぽくてほんわかしますが……。

 それから幾星霜。室町時代には男性アイドルの原型ができ、出雲阿国は日本で初の全国ツアーを行い、江戸時代には花魁の階級で最高位にあたる「太夫」や「呼出」(時期によって呼び方は変わります。江戸時代は長いので…)というスターが生まれました。
 その後はご存じのとおり、幾度かの戦争を経て日本は高度成長を遂げ、80年代アイドルから現代的なグループアイドルまで、姿を変え形を変え、ビジネスモデルを変えて、アイドルの系譜は脈々と受け継がれてきたわけです。

 …とまぁ、日本人ならほぼほぼ常識であるアイドルの成り立ちをテキトーに解説してみたわけですが、#ババババンビには、海外にはないブ厚いアイドル史をもつ日本独特の要素が見え隠れしているんですね。
 楽曲の『とぅ~まっそ』『うましか超!』『おっとっと!!』『DE・A・RU・KA!!!』は明らかに”日本”を意識したもので、連作なのかビックリマークも増えていってますし、ワンマンライブで使われる題字が筆文字だったり「天下布武」「天下統一」を冠していたり、ライブでは和太鼓や笛とセッションするステージもありました。もしコロナ禍がなくてオリンピックが2020年に開催されていたら、それこそクールジャパン的なムーブメントに乗ってインバウンド需要でのアイドル分野を根こそぎ攫っていたかもしれない。

 コンセプトは「馬鹿騒ぎ」であるにしても、主にグラフィックデザインや歌のモチーフとして要所要所に「和」を練りこんであるわけです。
 マーケティングの話になってくるんですが、本来であれば、あまりにも尖ったモチーフを振り回してしまうのは、楽曲の幅も狭くなっていきかねないうえに、それを受け入れられるターゲットがだいぶ絞られてしまうんですね。
 和テイストは日本人なら万人受けするんじゃないかと考えがちですが、和だから好まれてるわけじゃないんです。因果が逆です。
 例えば乙女ゲームで戦国武将や幕末志士をモチーフにしたものは根強い人気がありますが、それは和テイストだからではなくて、カッコよくてエモいキャラクターだからというのが大前提です。

 #ババババンビも、基本的にはライブアイドルらしさや、メジャー路線を視野に入れた興行というものがあって、そこに和テイストを載せている。このさじ加減がとてもよい。

 メジャーデビューシングルの『ゲイシャフジヤマ』はタイトルから推測できるように、フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ・サムライ・テンプラ・スシ・ニンジャ・スモウレスラーの世界ですよ。往年のJ-POPファンなら米米CLUBの「FUNK FUJIYAMA」を思い出すんじゃないでしょうか。
 海外から見たちょっと変な日本。黄金の国ジパングですわ。おまけにMVではセットにネオンサインがギラギラした風情で、勢いそのままに映画『ブレードランナー』を観直してしまいました。(そこは最近の『ジョン・ウィック:コンセクエンス』や『ブレット・トレイン』であるべきだろ! ジョン・ウィックに出てきたスモウレスラーも2人だったし…)

MV『ゲイシャフジヤマ』

 ビッグバンドでブルージーなイントロから入る歌詞が「♪いとエモし いとおかしき わかりみ」ですからね。現代語の形容詞「エモい」と古語のシク活用形容詞「をかし」が、趣のある様を幅広くカバーしている客観表現という点で同じ意味だって感覚的に理解してないとこれ書けないですよ、清少納言かよ。まあ、シク活用なんて使ったのは高校の古典の授業以来ですが……。

 カップリングの『BPM180』や『あのねのね』がコッテコテのアイドルソングなのに比べると、『ゲイシャフジヤマ』は多彩で緩急のある展開。これは本当にチャレンジングで、メジャーデビューによって一般層にアプローチしようとしたときにどうするかって話でもあるんですよね。
 MIXやコールやガチ恋口上の入れづらい曲調はライブアイドルファンのコア層にはウケが悪いと思うんですが、ここでさっきの「尖ったモチーフを振り回す」を良いタイミングでちゃんとやってる。

 これ、普通怖くてできないですよ、日和っちゃって。ぼくだったら、完成度が高くて疾走感のある『ミカンセイ』と同様の曲をA面(←これも古い表現だな)にして、c/wは『スノードーム』ぽいバラードにして安全牌をとってしまうと思う。でもこれだと#ババババンビのデビューを象徴するにはありきたりなアイドルのシングルになってしまうんだよなぁ……。やはりこのタイミングで尖ったモチーフをブンブン振り回すしかない。日和ったら後悔するやつ。

 なので、『ゲイシャフジヤマ』は#ババババンビがこれまで扱ってきた”日本”モチーフの集大成でもあり、これから積極的にアプローチすべき一般層向けにギリギリ振り回しても大丈夫な尖り方であり、グループを卜(うらな)うにふさわしい曲になっている、と思う。

 もうこれは個人的郷愁でしかないんですが、リリースイベントでこの曲が演じられる度にこみ上げてくるものがあったんですよね。あ、これ俺300年くらい前に花魁道中の光景に同じように見惚れてたわ、みたいな。有史以前に天岩戸の前でもこの輝きを目撃したわ、みたいな。

 大丈夫ですか、みなさんついて来られてますか? ぼくは自分で書いていて自分に振り回されています。

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