連載

【推しノベル】「最前列じゃなくても」第8話

人混みで息ができない私を、同担が救った――耳栓と水と、ひと言

会場前の行列は、いつ見ても生き物みたいだ。うねって、膨らんで、熱を持つ。私は列の端に立っただけで、喉が乾いた。

 当選してしまった。
 追加販売の奇跡で、私は現場に来てしまった。

 来た瞬間から、音が増える。駅のアナウンス、シャッター音、誰かの笑い声、紙袋の擦れる音。耳栓をしても、全部が皮膚から入ってくる。

 私は痛バッグを抱えた人たちの背中を見て、呼吸が浅くなった。最前列に立てない私が、こんな場所に来ていいのか。推しの声に会うために、私の身体が壊れたらどうする。そんな考えが、頭の中で暴れた。

 ミレイが隣で、私の袖を引いた。
「ひより。ちょい、こっち。列の外側、風通る」
「……うん」

 列の外側は、少しだけ空気が冷たかった。それだけで、救われる。
さやが小さな水を差し出した。
「飲む。ゆっくり。今は焦らない」
 私は蓋を開け、少しずつ飲んだ。喉が戻る。視界が少し広がる。

 さやが言う。
「耳栓、奥まで入れすぎないで。痛いなら、片方だけでもいい」
「……痛い、です」
「なら、片耳で。推しの声は片耳で十分届く」

 片耳で十分。
その言葉に、胸が少しだけ軽くなった。私は耳栓を片耳だけ浅くして、反対は外した。世界が少しだけ戻る。怖い。でも、戻ってもいい。

 並んでいる間、ミレイは唐突に私のバッグを見て言った。
「その推し色リボン、めちゃくちゃ良い。どこで買った?」
「……雑貨屋で。たまたま」
「たまたまの運、ひより強すぎ。追加販売も当てたし」
「強くない……たまたま、です」
「たまたまを積んでくのが推し活だよ。運用ってやつ」

 運用。
またその言葉。推し活は、祈りじゃなくて運用。私は、心の中で小さく頷いた。

 開場。
 人が動く。列が進む。私は息を数える。四秒吸って、六秒吐く。耳鳴りをやり過ごす。

 小箱イベントの会場は、想像より小さかった。近い。近いのが怖い。嬉しい。怖い。私は矛盾でできている。

 開演直前、ステージ袖から宵玻璃(よいは)が現れた。
 黒い衣装に、深い青緑の差し色。ガラス片みたいなアクセ。客席が息を呑む。

「……来てくれて、ありがとう」

 その声は、私の片耳から入って、心臓の奥に落ちた。
 泣きそうになる。泣くと息が乱れる。私は水を一口飲み、耐えた。

 終演後。
 出口に向かう人の波の中で、私はふと視線を感じた。斜め前。人の隙間。

 ユズがいた。
 昨日までタイムラインで何度も見た、完璧に整った痛バッグ。推し色のネイル。 Murmurのアイコン写真と同じ組み合わせだったから、遠目でも迷わなかった。
 首から、スタッフパスみたいなものを下げている。
 スタッフの近くで、当然みたいに立っている。

 私の背筋が冷える。
「……なんで、あの人が」

 ミレイが小さく舌打ちした。
「ヤバ。距離近すぎ」
 さやは短く言った。
「追わない。見ない。事実だけ残す」

 私は短く息を吐いた。目を逸らした。その瞬間、宵玻璃が最後に言った言葉が、脳内で反響した。

「無理しないで。ちゃんと帰って」

 帰る。
 でも、私はもう気づいてしまった。
 この現場は、ただの現場じゃない。

 誰かが、推しのそばに不自然に近い。
 それが、次に何を生むのか。

 私のスマホが震えた。
「見えた?」
 知らないアカウントからのDMだった。

「最前列に立てない私が、推し活戦線の司令塔になった理由――当落・遠征・炎上の全部を『好き』に変えるまで」

※本作品はAI生成本文を含みます

作者紹介

ヒトカケラ。

好きを少しずつ詰め込んだお話を、AIにも手伝ってもらいながら書いてるので、読んでもらえるとうれしいです。

公式サイト:https://hitokakera.com/
作者X:https://x.com/hitokakeranovel

RELATED POST